ラッヘンマンの肖像

監修=ヘルムート・ラッヘンマン

2017年6月17日[土]

■オリジナル企画

チケット予約

ⓒAstrid Karger, Saarbrücken

内なる心眼が、煌めく風景を呼び起こす

同じことが繰り返されているようで、退屈にも感じられる日常の生活。
自分のあるべき場所は別にある筈だと、新しい世界を夢見る。
しかし、何処に行こうとも、そこから別の日常が始まる。
結局は、代わり映えしない日常から逃れられることはできないのだが、
そんな当たり前の日々が、どこまでも愛おしく、輝いて見える時がある。
たとえば、病を患い、命の儚さを痛感し、普段の生活が奪われてしまった時。
たとえば、幼い子の日々の成長に目を見張る時。
たとえば、「今」が「永遠」に繋がっているのだと直観できた時。
世界が輝いて見えるかどうかは、外界に原因があるのではなくて、
わたしたちの心の「内」の問題なのである。

 ヘルムート・ラッヘンマンの音楽は、このような視点の転換を、音楽創造を通して実践している作曲家である。ブーレーズ、ノーノ、シュトックハウゼンなどの第二次大戦後の前衛第一世代と呼ばれる作曲家たちは、戦争を起こした前の時代には後戻りしたくないという想いから、新しい音楽の創造を目指した。それは、「今日と比べて、よりよい明日を」という進歩史観に裏付けされている。そして、彼らは既存の「調性」音楽を実現する機能和声に代わって「セリー(音列)」に基づく新しい作曲技法の確立を目指した。しかし、その後、厳格なセリー主義(serialism)は、その構造を聴き取ることが困難であることなどから、多くの聴衆の支持を得ることができずに挫折した。
 「より進歩した音楽を創造する」という目標を奪われ、進むべき方向を失った戦後第二世代の作曲家たちの中にあって、新しい道を開示したのがラッヘンマンであった。ラッヘンマンが見出したのは「進化」にかわる「異化」という考え方である。ラッヘンマンの作品では、楽器の特殊奏法などにより、それまで聴いたことのないような音を響かせることが多い。この方法論を作曲家自身は「楽器によるミュジック・コンクレート(musique concrète)」と呼んでいるが、試されているのは、従来の楽器の音をどのようにして「異化」するかということである。既存の楽器が未知の音色を奏でることにより、作曲や演奏の伝統の中で培われたその楽器の歴史的な意味が取り除かれ、新しい文脈に置き換えられ、新しい音世界が創出される。そして、ラッヘンマンは、その移行のために必要なのは、私たちの内部にある研ぎ澄まされた魂であると語る。進歩・進化の脅迫から逃れ、煌めく音風景と出会うために、「内」なる心眼を持つことの大切さを、ラッヘンマンは教えてくれている。

【プレ・トーク】15:20開始
「これまでの創作を振り返って」
出演:ヘルムート・ラッヘンマン(トーク)

【演奏会】16:00開演
ラッヘンマン:
弦楽四重奏のための音楽 〈グラン・トルソ〉
高音域のソプラノとピアノための音楽〈ゴット・ロスト〉
ピアノのための〈マルシュ・ファタール〉(日本初演)
弦楽四重奏曲 第3番 〈グリド〉

出演:
角田祐子(ソプラノ)
菅原幸子(ピアノ)
アルディッティ弦楽四重奏団
 アーヴィン・アルディッティ(第1ヴァイオリン)
 アショット・サルキシャン(第2ヴァイオリン)
 ラルフ・エーラース(ヴィオラ)
 ルーカス・フェルス(チェロ)
ヘルムート・ラッヘンマン(トーク)

▼料金

【全席指定】一般4,000円、ユース(25歳以下)1,500円
●15:10開場 15:20プレ・トーク 16:00開演

チケットの取り扱い

水戸芸術館エントランスホール・チケットカウンター
水戸芸術館チケット予約センター 029-231-8000
MUSIC SHOPかわまた 029-226-0351
ヤマハミュージックリテイリング水戸店 029-244-6661
e+(イープラス)http://eplus.jp(PC・携帯)



ⓒGiovanni Dainotti, Milano

ヘルムート・ラッヘンマン

作曲家

 1935年シュトゥットガルト生まれ。1955年から58年までシュトゥットガルト音楽大学で、ピアノと音楽理論と対位法を学び、さらに1958年から60年までヴェネツィアでノーノに作曲を学ぶ。ラッヘンマンの音楽はノーノの点描的な音の組織化から出発した。1960年代の後半から、第二次大戦後の作曲の主流であったセリー(音列)主義から離れ、既存の楽器に新しい奏法を用いることで、楽器や聴取の歴史的な背景・伝統から切り離され、異化された、独自の音響世界を作り出す書法を確立していった。
 ルートヴィヒスブルク教育大学で教鞭を執った後、ハノーヴァー音楽大学(1976-81)およびシュトゥットガルト音楽大学(1981-99)の教授として作曲を教える。さらに彼は、アルゼンチン、オーストリア、ブラジル、チリ、中国、ドミニク共和国、イギリス、フィンランド、フランス、イタリア、日本、オランダ、ノルウェー、ロシア、スイス、アメリカなど世界各地で数多くのセミナー、ワークショップ、マスタークラスを行っている。ダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会では、1978年から2014年まで幾度も講師を務め、多くの作曲家たちに強烈な影響を与えると同時に絶大な支持を集めた。2009年、東京オペラシティ「武満徹作曲賞」の審査員を務める。2010年、バーゼル音楽学校およびロンドンの王立音楽大学の客員教授となる。1972年ハンブルク市のバッハ賞、1997年エルンスト・フォン・ジーメンス音楽賞、2004年ロンドン・ロイヤル・フィルハーモニック協会賞(弦楽四重奏曲第3番〈グリド〉に対して)、2008年ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞、2016年国際アンデルセン賞(歌劇〈マッチ売りの少女〉に対して)などを受賞している。現在、ハノーファー音楽大学、ドレスデン音楽大学、ケルン音楽大学の名誉教授を務める。2015年の80歳を祝う「ラッヘンマン・パースペクティヴ」という演奏会シリーズでは、彼の管弦楽作品20曲がヨーロッパの主要オーケストラによって演奏された。

角田祐子

ソプラノ

 大阪音楽大学卒業、京都市立芸術大学大学院入学。同大学給費交換留学生として渡独。2002年ベルリン芸術大学卒業。同年バイロイト音楽祭元総監督のエヴァ・ワーグナー=パスキエに見いだされ、フランス・エクサンプロヴァンス音楽祭にてオペラデビュー。同年から2006年までハノーファー州立歌劇場とソリスト契約。ヘスポス作曲のオペラ〈iOPAL〉の初演に際し、オペルンヴェルト誌新人歌手賞にノミネートされ公演は 「最優秀初演賞」 を得る。ヘスポスよりオペラの中の作品を、"Yuko Poem" として献呈される。ノーノ作曲のオペラ 〈愛に満ちた偉大な太陽に向かって〉において、主役の一人(L.ミシェル)を歌い、日本人として初めてオペルンヴェルト誌年鑑の表紙を飾る。バロック・オペラからモーツァルト作品においても多くの成功を収めた後、2006/07シーズンからシュトウットガルト州立歌劇場とソリスト契約を結び現在に至る。ベルリン・ドイツオペラ、フランクフルト歌劇場、ベルリン・コーミッシェ・オーパー、ブエノスアイレス・コロン歌劇場、ルールトリエンナーレ音楽祭、エジンバラ国際芸術祭、ベルン・ビエンナーレ、ザルツブルク・ビエンナーレ、ダルムシュタット現代音楽夏期講習会、マンハイム・ナショナルオペラ、スイス・ベルン歌劇場、ザールブリュッケン州立歌劇場、ライプツイヒ歌劇場、スポレート音楽祭等に、オペラ 〈魔笛〉 の夜の女王、ラッヘンマン作曲 〈マッチ売りの少女〉のソリスト等で客演。ラッヘンマン作曲〈ゴット・ロスト〉を菅原幸子とSWR放送局、NDR放送局主催のコンサートで演奏。2016年10月ドイツ連邦共和国より「宮廷歌手」の名誉称号を得る。

菅原幸子

ピアノ

 札幌生まれ。桐朋学園大学卒業後、ベルリン音楽大学とケルン音楽大学で学び、ソリスト試験を最高点で卒業。ソリストとして、ブーレーズ、カンブルラン、エトヴェシュ、ツェンダー、ツァグロセク、ポマリコ、ルンデル、飯森範親、秋山和慶といった指揮者と共演。室内楽奏者としても、木場倶子と「デユオ・カプリチオ」、 辺見智子との2台ピアノなどで活動をしている。夫のラッヘンマン、マヌエル・ヒダルゴ、ハンス・トマラ、ジャンルカ・ウリベリ、マーク・アンドレ、クラウス・オスパルト等の数多くの作曲家が、彼女のために新曲を書いている。ザールブリュッケン音楽大学の客員教授、マスタークラスをシュトラスブルク、ニューヨーク、クラコフ、シカゴ、ウィーン、ベルン、ドレスデンの音楽大学で行っている。パリの秋音楽祭、ベルリン芸術週間、ドナウエッシンゲン音楽祭、ブリュッセル・アルスムジカ、ワルシャワの秋、ベルゲンのミュージック・ファクトリー、ポルヴォー・アヴァンティ・サマーサウンズ・フェスティバル、マドリットの現代音楽祭、トロントおよびアムステルダムの音楽祭、秋吉台国際20世紀音楽セミナー&フェスティバル、武生国際音楽祭など世界各地の音楽祭に招かれる。ソロおよび室内楽作品のCDも多く、中でもラッヘンマンのピアノ・ソロ曲〈セリナーデ〉のCDは、ドイツ・レコード業界賞を受賞している。ダルムシュタット・クラーニッヒシュタイン音楽賞他、国際的な音楽賞を多数受賞。

アルディッティ弦楽四重奏団

 1974年に創設。現代作品そして20世紀初期の作品の深い解釈と卓抜した演奏は、世界各地で高い評価を確立している。バートウィスル、ケージ、カーター、ファーニホウ、グバイドゥーリナ、ハーヴェイ、細川、クルターク、ラッヘンマン、リゲティ、リーム、シェルシ、シュトックハウゼン、クセナキスなどの作品を世界初演。日本人作曲家の作品も数多く録音・演奏。作曲家とともに作品の解釈を深めていく彼らの演奏を経て、それらの多くが今世紀の代表的なレパートリーとなっている。CDは200タイトルを超える。ナイーヴレーベルからは、話題沸騰したシュトックハウゼンの「ヘリコプター・クァルテット」など多数リリース。1999年には、エルンスト・フォン・ジーメンス賞受賞。スイスのパウル・ザッヒャー財団には演奏記録が全て収められている。
 1988年に武満徹に招かれ初来日。水戸芸術館では2000年と2014年の単独演奏会、2004年「べリオの肖像」、2010年「リゲティの肖像」、2012年「シュニトケの肖像」に出演している。


▼公演概要

公演名

ラッヘンマンの肖像


会場

コンサートホールATM


開催日

2017年6月17日[土]


主催

公益財団法人水戸市芸術振興財団